講師は「はやぶさ2」ミッションマネージャーの吉川真さん。吉川真さんは「はやぶさ」では軌道決定を担当した人で、「はやぶさ」ミッション後半ではプロジェクトサイエンティストを、ミッション最後にはプロジェクトマネージャーを兼任した人だそうです。また、太陽系小天体探査検討チームのリーダーとして「はやぶさ2」のプロジェクトを立ち上げ、プロジェクトマネージャーを経てミッションマネージャーを務めているそうです。天体の地球衝突問題(スペースガード)に関する研究や啓もう活動も進めている方ですっ。
この講演会の主催は栃木航空宇宙産業振興会等の主催でした。上記団体は栃木県の宇宙産業に携わる19企業の団体だそうです。富士通も19社の一つで、それに携わっていたM君からこの講演会が有るのを聞いてやってきました!
まずは「小惑星とはなんぞや?」の前に「惑星とはなんぞや?」。冥王星が惑星じゃ無くなったお話。軌道が楕円で小さい冥王星は2006年に惑星の定義から外されました。
これは小惑星の観察例の動画でした。銀河の横を左上から真ん中下へ小さな白い点が移動する動画でした。遠くの銀河と比べても、もっと暗い小さな点にしか見えない小惑星を発見する時は、こうして星の間を動く点を探すと言うお話でした。
現在、発見されていて軌道も判ってる小惑星を点で書くとこんなに沢山!一番外に書かれた軌道は木星だそうです。木星と一緒に木星軌道上を回っている小惑星群もあります。
そして木星の外側にもエッジワース・カイパーベルト言う小さな天体が密集した所があるそうです。点々の分布が縞々なのは、背景に天の川があって観測し辛い為に見つからない天体が有るせいだそうです。
そして太陽系の外側にあるオールトの雲。これは彗星の巣と言われ、まだ実在は確認されていません。超周期の彗星の長半径や軌道の傾きなどから予測された、理論上の存在。球状の広がりを持ち小天体が沢山存在すると思われます。しかし、まだオールトの雲に属すると思われる天体は観測例がないそうです。
太陽観測衛星がとらえたアイソン彗星消滅の軌跡を見せてもらいました。真ん中の白丸が太陽の視直径で、黒丸は眩しい太陽を隠した丸い板だそうです。普段は太陽が噴きあげるコロナなどを観測している衛星の画像。右から来たアイソン彗星が光度を上げながら太陽に近づき、黒丸の直前で急速に暗くなり、反対側から出て来た時は核が無くなっていた様子です。動画も見せてもらいました。
彗星は殆ど氷で出来ている為、このように太陽に近づきすぎると溶けてしまう事があります。明るくなるかもしれないと期待されていたアイソン彗星は直径が4Kmもあって、今までの例ではこの大きさがあれば全部溶ける事は無かったそう。太陽系の外からやってきて、初めて太陽(恒星)の熱に晒されたアイソン彗星は、大きさはあっても案外スカスカの中身だったのかもしれませんね。
そして、これが小惑星イトカワです。アイソン彗星と比べても、とても小さい天体です。彗星とは違い岩石で出来ています。小惑星は惑星と違い小さい為一度も溶けた事がありません。その為、太陽系創世記の岩石の様子を今にとどめていると考えられます。
「イカロス」は「あかつき」と一緒に打ち上げられた、宇宙ヨットの実験機です。理論はあっても技術的に難しいとされた宇宙ヨットです。もっぱらSFネタで登場していた宇宙ヨットですが、「イカロス」の実験は日本の折り紙技術も駆使して大成功でした!萌え~っ
科学的意義:我々生命がどうやって生まれたのか、そして何処へ向かうのかを知る。
資源的意義:小惑星から資源を持ちかえる。これは今の所、地球で使うには高く付きすぎて採算は取れないけど、技術の革新によりどうなるか判らないので探り続けなければならない。
有人ミッション:アメリカが計画している火星有人飛行の前にもっと近い小惑星への往復の必要。
技術・文化創造の意義:これはどんな分野でも言える事。技術は途切れることなく積み重ね無ければいけない。新しい技術・文化の蓄積こそ人間の存在意義。
スペースガード:直径数十mの小さな天体でも地球に衝突すると大きな被害が予想されるため研究は欠かせない。
最近有った隕石の地球衝突について。
今年、ロシアに落ちた隕石。チェリャビンスクと言う都市では、車のドライブレコーダでその軌跡が詳細に写されていたり、大学の防犯カメラに衝撃波の映像が捕えられたりして、豊富な映像データが残った。左上と右下の写真の様な2枚は、両方とも動画でした。右下映像は隕石が通過して行く映像。右下で隕石通過の2分後、左上の映像の大学の窓が衝撃波で割れた。しかし外を気にしたのは廊下に居た数人の内の一人だけだった。しばらくすると講義室から避難する生徒の列が写った。たぶん、この時は何が起きたのか分からずに避難していただろう。
落ちていた隕石。軌道の真下で数多く発見されている。チェリャビンスクからは7Kmも離れていた。落下直後、直径17mの隕石と予想されていたが、その後の詳細なDATAから20m位の隕石だったと推定されている。それでも1500人が負傷する被害が出た。小惑星や小天体の研究はスペースガードの見地からも重要である事が判る。
チェリャビンスクの隕石の一つを吉川先生が持って来ていた。イトカワと同じタイプの岩石で出来ていたそうです。コンドライトと言う丸い鉱物の結晶が入っているらしい。
はやぶさの成功を受けて、各国でも小惑星の探査計画が始まっている。こちらはアメリカの計画。小惑星を丸ごと探査機に採りこんで、地球周回軌道まで持ち帰る計画。はやぶさが初めて実証した、イオンエンジンを大きくした物を使うらしい。蛇腹の容器を広げて小惑星を包み込んで持って帰る計画。なんかイカロスの宇宙ヨットの帆から着想してそう~。
NASAの計画では、小惑星を地球の周回軌道まで運んで、宇宙飛行士が行って船外活動により、取りだすつもりみたい。
宇宙飛行士が蛇腹の容器から取りだした小惑星をカプセルに入れて地球に落とすんだって。
まだまだ、解決しなければ行けない技術的課題が山積みで、お金も莫大にかかるらしい。無駄に大きい、アメリカらしい計画ですね。日本も誘われてるんだって。なんだか迷惑な話な気がする~。
その点、はやぶさは庶民的。予算もアメリカの探査機の1/20。今年の夏休みに相模原で行われたイベントには沢山のはやぶさファンが訪れた。
ファンから送られた大漁旗。はやぶさ2では小惑星の破片が大漁でありますように、と贈られた。大量の予算を注ぎ込んで大きな探査機を作るアメリカとは大違いっ。
現在の「はやぶさ2」の様子。大きさは「はやぶさ」と同じ位。左の写真は耐震試験中。
「はやぶさ2」着実に進んでいます!
ここからは「はやぶさ」の功績。
打上は2003年5月9日。内之浦からM-Vロケットで打上。打上成功を確認後「はやぶさ」と命名された。由来はもちろん、獲物を狙って獲ってくる隼。世界初の小惑星からのサンプルリターンを狙う。それまでの探査機は世界中どの国の探査機も、行ったっきりで帰って来ない計画だった。
「はやぶさ」の構想が初めて出されたのは1985年。その時の検討資料の表紙が右上の絵だそうです。宇宙飛行士が小惑星に行ってる絵ですが、日本ってこの頃から探査機を擬人化していたの?萌え?探査機の開発開始は1996年。打上は2003年でした。探査機の開発とはとても時間がかかる物で、始めなければ何十年も遅れを取ってしまうものなんです!数々の世界初への道は1985年に始まっていたんですっ!その位前から構想していないと世界初には間に合わないんですっ!
「はやぶさ」は当初、往復4年の計画でしたが、深刻なトラブルにより3年延びて7年間のロングミッションとなりました。この深刻なトラブルを何度も乗り越えて地球に帰還した為に有名になった「はやぶさ」ですが、「はやぶさ2」では起きてはいけないトラブルとして、慎重に検討が進められているそうです。
高利得アンテナは「はやぶさ2」では小さいのが2つになるそうです。小さくなるけど2つ有ることで出力は変わらず軽く作れるそうです。ターゲットマーカーは砂の入った固い球で、着陸前に目印としてイトカワに落とします。応援している人達の名前入りです。露美も旦那が2人分応募したから名前が有るハズ!探査ローバは最初、アメリカ製が乗るはずでしたが途中でアメリカがお金がかかり過ぎると止めました。その為、日本製のミネルバが乗る事になりました。ミネルバはイトカワの上を転がって探査するはずでしたが、残念ながら重力の小さいイトカワに着陸できずに何処かに飛んで行ってしまいました。
イオンエンジンはキセノンガスをプラズマ化して高電圧で加速するもの。燃料を爆発的に燃やすロケットと違い推力は小さい。しかし長時間作動し続けられるので、最初に燃え尽きた後は惰性で進むロケットと違い、加速し続けられる。プラズマ化やガスの加速の燃料は太陽電池の電気なのでものすごく軽く作れるのも大きな利点。これも実用化は世界初。
サンプルホーンも行ってみないと何で出来ているか判らないイトカワの為に作った。イトカワが固い物で出来ていても砕いて採れるように、弾丸を発射して飛び散ったサンプルを取りこむ仕様。
そして辿り着いたイトカワ。世界中の誰もが岩だらけの寄り集まりの凸凹とは想像だにしていなかった。それまでの小惑星のイメージはクレーターだらけと言うものだった。つまりクレーターの中には平らな所も有ると誰もが思っていた。
着陸出来る平坦な場所など無いかの様な凸凹だらけのイトカワだったが、幸い砂地の様な平らな部分が見つかった。それは腹の部分の凹んだ所だった。この写真で「頭」とか「背中」と書かれているのは、、、
研究室の一人がイトカワの写真に書いたラッコの落書きが発端だった。最初の落書きは一番右端のもの。
国際的に登録されたイトカワ表面の地名。多くは相模原キャンパス周辺の地名をもらっているが、外国の地名も付けて国際的に認めてもらうのが慣習らしい。
良く聞かれるイトカワの名前の由来は、日本のロケットの始祖、糸川博士から来ている。元々小惑星イトカワを発見したアメリカのプロジェクトの快諾を得て付けたそう。おりしも「はやぶさ」がイトカワに到着した年は、糸川博士がペンシルロケットを始めて発射してからちょうど50年目の事だった。ペンシルロケットが50年で「はやぶさ」に迄、発展する日本って、すごくない!?
「はやぶさ」は様々な新技術が詰め込まれていた。露美の記憶が大分怪しくなって来たが、、、
光学航法とは「はやぶさ」が自分でイトカワを捉えて近づく航法。地球と交信して指示を待っていてはイトカワに近づけないので「はやぶさ」が自力でイトカワに寄って行く航法、だったと思います(^^ゞ。
様々な想定外の事も起こりました。でも、すべての困難を乗り越えて地球に帰って来た「はやぶさ」は、人々の心を捉えました。
映画が3つも出来たのは一番の想定外だったそうです!(^o^)
オーストラリアのウーメラ砂漠にイトカワのサンプルのカプセルを落とした時の「はやぶさ」。小さなカプセルの光の筋を追うように、バラバラになりながら燃えつきてゆく「はやぶさ」に露美も涙したものです(;へ;)。
↑の映像は計算しつくされて撮られた写真だそうです。はやぶさが萌え始め燃え尽きる高度って計算出来るんですねっ。
ここから先は、それまでのトラブルがうそのように順調だったそうです。
サンプルホーンから弾丸が発射されなかった事は判っていたので、埃の様なサンプルしか獲れていないのも判っていました。「はやぶさ」が弾丸を発射していないのが判った時はショックだったようですが、「はやぶさ」の地球帰還を決めてからは準備は万端。3年の間に、クリーンルームや埃をかき集めるヘラなど準備して「はやぶさ」の帰還を待ちました。
現在のチリの様なサンプルを分析する技術はすごいそうです。数十ミクロンの粒をスライスして分析できるんですって!各国に分析者を公募して選ばれた所にイトカワのサンプルを送って分析してもらいましたっ。
分析の結果分かった事は、イトカワが800℃くらいの熱編成を受けていた事。その為にはイトカワ本体は直径10Kmの大きさにはなった事が有る事が判ってきました。
太陽系はガスの塊から出来たと考えられています。地球などの惑星は固まる過程で必ずドロドロに溶けるほどの熱編成を受けています。しかし、中心部が熱くなる程大きくならなかった小惑星は、太陽系が出来た当初の物質の状態を保ったタイムカプセルですっ。46億年前の太陽系の様子を伝えるタイムカプセルなんです!
「はやぶさ」のおかげで太陽系が出来た当初の岩石の様子は解かってきました。「はやぶさ2」は水や有機物の残っていると思われるC型小惑星を目指すそうです。有機物は宇宙線等の放射線で劣化してしまうので、「はやぶさ2」では着陸前に小惑星の表面で爆発を起こし人工クレーターを作ります。そしてクレーターの中に着陸し、表層より深いフレッシュなサンプルの採取を目指しています!←地球から離れた所で「はやぶさ2」が自力で判断する高度なミッションです!特に人工クレーターの着陸は難しそう~っ
宇宙にはどうやら水は氷と言う形で豊富に存在するようです。「はやぶさ2」では太陽系が出来た当初の有機物がどんな状態で存在したのか探ります。いよいよ、宇宙における生命の起源に迫る時が来るんですっ!
こんな時代に立ち会えるなんて!ワクワクしますねっ。
人工的に作ったクレーターに着陸する「はやぶさ2」
2020年!どんなドラマが待ち受けているのでしょう!? 今度は映画が出来る様な非常事態は起こらないと良いですねっ(^^;。
サンプルホーンは「はやぶさ」と同じ。行ってみないと小惑星が瓦礫の塊か、砂の塊か、岩の塊か判らないのでこれは変更しないそうです。他の国ではイトカワタイプと最初から決めて計画している探査機もあるそうです。
今までの探査機で分かった不具合はすべて網羅して対策しました!
「はやぶさ2」は、人工クレーターを作る時に出るデブリにぶつからない様に爆発時には小惑星の陰に隠れるそうです。
目標の天体は小惑星帯の中でも遠い側。有機物が残っていると思われる地帯です。地球からの観測では、自転による明るさの変化は少なく、球体に近い形と予想されています。
イトカワより少し大きな小惑星です!
今度はアメリカやヨーロッパも参加します。はやぶさではオーストラリアとの協力でした。アメリカは途中で降りたから。小惑星に降りるミネルバみたいなローバはドイツが作ります!
世界各国でも小惑星の探査を計画しています。日本以外、どの国も近場の小惑星を狙うようです。
日本では「はやぶさ2」の次の構想も始まっているそうです。各国が火星軌道程度の小惑星を狙う中、日本は木星軌道の小惑星を視野に入れています!
火星軌道付近に広がる小惑星帯の外側。木星軌道上にも小惑星が存在し、より原始太陽系の姿をとどめていると考えられています。こんな遠くを目指す探査機は今の所、日本でしか構想されていませんっ。
そんな遠くに到達する為の技術が、日本では既に実証されているんですっ。夢の宇宙ヨット。露美が高校生の頃は、完全にSFの世界でした!今は既にイカロスが宇宙を航行中なんですっ♪
イトカワも小惑星帯の中では地球に近い軌道だったんです。
さらに遠い小惑星をめざし生命の起源を探る「はやぶさ2」!夢は尽きませんっ♪
夢は尽きませんが終了時間は来ました。最後に質問コーナーです。今回、帝京大学など小さな衛星を実際に打ち上げる大学の学生さんも来ていました。それから小学生~高校生など、「はやぶさ2」の次の時代を担う世代が探査機に興味を持って講演会に来てくれているのは頼もしい!
たぶん小学生の質問。
「はやぶさ2」は何で打ち上げるのですか?
「はやぶさ」を打ち上げたM-Vは運用を終わってしまいました。その代りに試験を始めた、小さい衛星を安く打ち上げる為のイプシロンロケットでは少し出力が足りなくて、「はやぶさ2」は上げられないそうです。「はやぶさ2」は種子島からH2Aロケットで打ち上げるそうです。打上、見に行きたいなぁ~っ!!
大人の男性からの質問。
ロシアに落ちた隕石などは来る前に予想できないのですか?
ロシアのチェリャビンスクの隕石は地球の昼間側から来た隕石です。過去に落ちる前に落下点が推定で来た隕石は、右下のスーダン北部に落ちた隕石のみ。これは地球の夜側から近づいて来たので観測が可能だったそうです。
このように地球の直前では夜側から来ないと見えないので、小さな小惑星の軌道をもっと前から把握するのは大事。しかし小さい物は近づかないと見えない。せめて前もって避難出来る位前に落下点が判る事を目指す。
宇宙には何もないと思うのに何でトラブルが起きるのか?と言う質問もありました。
確かに宇宙は真空ですが、太陽の爆発などの宇宙線(放射線)に晒されています。地球などの様に大気に守られている方が、生命が育まれるゆりかごとなるんです!はやぶさの様な電気部品の塊は宇宙線によって回路が壊れたりします。バンパーの様な物を取り付けて、地球から送りだしたい所ですが、残念ながら重くなれば打上コストも格段に高くなり、取りつけてあげて打ち上げる事が出来ません。
20分の質問時間ではまったく足りませんでした。質問の手が沢山上がるとても良い講演会でした。
吉川先生は、はやぶさと小惑星への愛に満ちあふれた方でした!研究対象を大好きな研究者って幸せそうで、見ている露美まで嬉しくなっちゃますっ。
帰りに宇都宮でラーメン食べて帰りました。ラーメンなのに麺がアルデンテの珍しいラーメン屋さんでした!
美味しかったっ。